灰の森通信

二三川練の感想ブログ

一首評

【一首評】スタジオの裏で飼ってた猫が嚙む何の肉でもないような肉/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

スタジオの裏で飼ってた猫が嚙む何の肉でもないような肉/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「Twin Reverb」より。句切れは「嚙む/何の」の一箇所に薄く。連作名はギターアンプの名前らしく、「スタジオ」とはバンドの練…

【一首評】鍋底の殻の割れ目のびゅるびゅると溢れる白身 生きていたこと/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

鍋底の殻の割れ目のびゅるびゅると溢れる白身 生きていたこと/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「天才じゃなくても好き」より。句切れは全角スペースの一箇所。 ゆで卵を作る際、鍋に入れた卵の殻が割れ、白身が「びゅ…

【一首評】吐瀉物でひかるくちびるいつの日かわたしを産んで まだ死なないで/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

吐瀉物でひかるくちびるいつの日かわたしを産んで まだ死なないで/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「Splitting of the Breast」より。このタイトルは心理学用語で「乳房の分裂」を意味するようだ。赤ん坊が自分を満足…

【一首評】水槽の匂いの駅に気づくときわたしまみれのわたしのまわり/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

水槽の匂いの駅に気づくときわたしまみれのわたしのまわり/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「八月三十二日」より。夏休みの幻の続きを表すかのような連作タイトルである。この一首は細かい修辞が特徴的であり目を引い…

【一首評】死後の町に回り続ける観覧車、音がなくなってたくさん笑う/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

死後の町に回り続ける観覧車、音がなくなってたくさん笑う/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「ハローワールド」より。句切れは読点の一箇所。読点の句切れは上の句と下の句を切りながらも散文的な繋がりを保持しようと…

【一首評】目覚めれば羽虫のような愛しさを閉じ込めたまま止めるアラーム/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

目覚めれば羽虫のような愛しさを閉じ込めたまま止めるアラーム/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「夏が終わったら起こしてね」より。はっきりとした句切れは見えず、それゆえに主客の転倒や主語の混濁が見られる。それ…

【一首評】生まれ変わったら台風になりたいねってそれからは溶ける氷をみてた/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

生まれ変わったら台風になりたいねってそれからは溶ける氷をみてた/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「夏が終わったら起こしてね」より。句切れは「なりたいねって/それからは」の一箇所。具象の薄い一首であるが不思…

【一首評】汚物入れに群がっている蠅蠅よ聞いてわたしも人が好きだよ/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

汚物入れに群がっている蠅蠅よ聞いてわたしも人が好きだよ/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「そのみずうみに浮かぶものたち」より。解説で東直子が書いているように「人々」のように「蠅蠅」と呼びかけている点が面白…

【一首評】手のひらに潰せなかった蚊の脚が揺れて、揺れ続けて、夏果てる/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月)

手のひらに潰せなかった蚊の脚が揺れて、揺れ続けて、夏果てる/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「そのみずうみに浮かぶものたち」より。読点がそのまま句切れとなるが、一つ目の読点は軽く二つ目の読点が深い句切れと…

【一首評】ふくらかな向日葵のくき手折りつつきみが子どもを産む日をおもう/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』

ふくらかな向日葵のくき手折りつつきみが子どもを産む日をおもう/藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』(書肆侃侃房 二〇二一年六月) 連作「そのみずうみに浮かぶものたち」より。この歌集は全体を通して女性として生きる「わたし」から女性として生きる「き…