灰の森通信

二三川練の感想ブログ

【一句評】遮断機の手前は暑い秋でした/樋口由紀子『めるくまーる』(二〇一八年十一月 ふらんす堂)

遮断機の手前は暑い秋でした/樋口由紀子『めるくまーる』(二〇一八年十一月 ふらんす堂

 

 遮断機や踏切は短歌でも境界の象徴として見ることの多いアイテムだ。たいてい境界が出てくる際はその手前と奥、つまりは「こちら側」と「あちら側」の対比が描かれるように思える。言い換えれば、彼岸と此岸である。
 この句においては遮断機の「手前」が「暑い秋」である。たしかに最近は秋でも暑い日が続くが、それでも字面に違和感がある。秋なのに暑い。暑いのに秋。そもそも気温変動などが生じ四季の変化が異様である昨今、何をもって四季を同定するのだろうか。たしかに実感はあるが言葉にすればすこしおかしい「暑い秋」は「手前」、すなわち「こちら側」にあるのだ。こちらの世界はもうおかしくなってしまった。では、遮断機の向こうには何があるのだろうか。私たちが失ってしまった涼しい秋だろうか。それとも、来たるべき暑い冬だろうか。