灰の森通信

二三川練の感想ブログ

【一句評】あるだけのタオルを積んで夜の底/樋口由紀子『めるくまーる』(二〇一八年十一月 ふらんす堂)

あるだけのタオルを積んで夜の底/樋口由紀子『めるくまーる』(二〇一八年十一月 ふらんす堂

 

 積めば積むほどタオルは上へ昇ってゆく。しかし到達点は上ではなく「底」である。「夜の底」は底知れない夜の闇を表現する言葉であり、この句では情景描写と言葉遊びとが両立している。
 様々な短歌に触れていると、客観的に見ればなんの意味も持たないような行為が主体にとって深い祈りの意味を持つというある種のパターンを知ることになる。この句の「あるだけのタオルを積んで」という行為もそのパターンに含めることができる。ポイントは「あるだけの」という表現である。バスタオルやハンドタオル、様々なタオルを家のなかからかき集めて積んでいく。もちろん畳んで積むだろうから、かさばるしバランスも悪くなるだろう。その不安定さがまさに心情の暗喩となっているのだ。今にも崩れそうなタオルの塔を前にして夜はなおも更けていく。そこには底知れない哀しみがある。