短歌連作「頬」
頬 二三川練
教室を落ちる夕陽にてらされて骨の身体をあばかれている
足跡をなぞっていけばずれてゆく水平線が身体に充ちる
そうやってきみはなんにん殺したの 詩人が孤児を見つめるように
聞こえないようにつぶやく欲望のあなたの自我に蜘蛛の巣を張る
木々がわらう 木々が泣く 木々が怒る あなたはどこまでも消えている
フィルターをたれるコーヒー待ちながらふいに切りたし誰かの頬を
宝石の名前の子ども一人いてまわるケバブを見つめておりぬ
そのなかで声だったのはわたしだけ肉屋がわたす牛のかたまり
掻き鳴らすギター持たざる僕のため地平を踏み抜けよ競走馬
毒虫のごとくに光る電波塔 吐きだすために噛みしめるガム
暗闇をまだあたたかい手が伸びて迷子の頬をつつもうとする
甘い水ゆびにこぼして痛覚をわすれたようにたたずんでいる
月をみる夜がおわれば放牧のなかにこわれた自転車がある
感情の一つ一つを生き埋めてそれを論破と呼んでいる日々