【一首評】ふくらかな向日葵のくき手折りつつきみが子どもを産む日をおもう／藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』

ふくらかな向日葵のくき手折りつつきみが子どもを産む日をおもう／藤宮若菜『まばたきで消えてゆく』（書肆侃侃房　二〇二一年六月）

　連作「そのみずうみに浮かぶものたち」より。この歌集は全体を通して女性として生きる「わたし」から女性として生きる「きみ」への愛情や哀しみ、そしてまとわりつく死の気配などが詠われている。その世界観の一つの提示として冒頭の連作の第一首として掲出歌が置かれている。
　句切れは「手折りつつ／きみが」の一箇所。生命力に溢れた向日葵のくきを手折る、すなわちその命を奪う上の句。それに対し「きみ」が命を産む日がいつかくるという予感の下の句が付いている。このとき、「わたし」によって「子ども」の命が奪われるのではないかという予感が生まれる。「きみが子どもを産む」ということは「わたし」ではなく他の男性身体と番ったということだ。その男性身体を憎むことは難しくなくとも、罪の無い、そして「きみ」から産まれてきた「子ども」を手折ることはできるだろうか。諦念の奥に暗い怒りが見える一首である。